コラム詳細
身体障害者野球について
第24回全日本身体障害者野球選手権大会に行ってきました!
野球は、年齢や性別を問わず、日本で人気のあるスポーツであることは言うまでもありません。アメリカのメジャーリーグで、投打の二刀流として大活躍する大谷翔平選手の姿や、プロ野球、春と夏に甲子園球場で行われる高校野球を楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。
しかし、突然の事故や病気でドクターストップがかかって野球を断念し、泣きながら用具を燃やしたが、愛用の磨き込んだグラブだけはどうしても捨てられなかった方や、生まれながらの障害のため、野球に憧れながらも諦めてきた方もいらっしゃいます。
関連資料
『でも、どうしても野球がやりたい!』
こうした方々の野球に対する熱い思いを叶えるため、1993年1月に日本身体障害者野球連盟が設立されました。(2016年3月に特定非営利活動法人へ移行)
<ホームページ:https://www.jdl.or.jp/>
連盟では、『ルールに障害が合わないのであれば、障害にルールを合わせよう。』との発想から、特別ルールを考案し、幅広い障害者を受け入れています。
1993年5月には、第1回全国身体障害者野球大会(春の選抜)を開催するとともに、1999年11月には第1回全日本身体障害者野球選手権大会(秋の選手権)を開催し、両大会は以後、震災等のあった年を除き毎年開催するなど、わが国の障害者野球の普及・振興に取り組んでいます。
また、4年に一度は世界大会を開催するなど、その活動は国内にとどまらず、世界の仲間と野球を楽しむ取り組みも行われています。
○ 連盟の概要(2022.2.27現在)
・加盟チーム数:38チーム
・登録選手数:957人
・愛知県内の加盟チーム:名古屋ビクトリー
<ホームページ:https://teams.one/teams/victory/>
○ 主催大会の概要
・春の全国大会:全国身体障害者野球大会
前年秋のブロック予選会の成績を基に16チームを選抜(7ブロックから各2チームと、普及枠として2チーム)
・秋の選手権大会:全日本身体障害者野球選手権大会
7ブロック予選会の優勝チーム
※ブロック分け
北海道・東北、関東・甲信越、中部・東海、東近畿、西近畿、中国・四国、九州
・世界身体障害者野球大会
4年に一度、5か国による大会を日本で開催(2日間の日程で、総当たり戦で実施)
参加国:日本、アメリカ、大韓民国、台湾、プエルトリコ
『ルールに障害が合わないのであれば、障害にルールを合わせよう。』
障害者スポーツでは、障害のためにできないことや、安全上やってはいけないことがあるため、施設・用具・ゲームの進め方などの競技規則を障害に合わせて工夫をしています。障害者野球のルールの一部を紹介します。
・ボール
軟式ボールで行っています。
・スパイク
金属製スパイクの使用は禁止されています(ポイント底のみ)。
・打者代走
下肢障害者で、走塁が困難と認められる選手の打席には、打者代走を認めています。代走者のスタートラインは、三塁と本塁を結ぶファールラインの延長線からバックネット方向へ1メートル後退した地点としています。【下の写真参照】
・指名打者制
試合では、DH制(指名打者制・投手に代わって打つ打者を指名する制度)またはEDH制(10人打者制・守備を行う9人に加えて1人は攻撃のみ参加する制度)を採用できます。
・走塁
盗塁は認めていません。ただし、タッチアップは認めています。
パスボールやワイルドピッチの場合は、ボールが捕手のミットまたは身体に触れた時点でボールデッドとなります。触れない時は、走者は危険を冒して進塁してもいいですが、最大でも次塁までとしています。
投手からのけん制球が逸れた場合は、走者は危険を冒して進塁してもいいですが、最大でも次塁までとしています。
捕手から投手への返球はボールデッドとしています。ただし、捕手から各塁上走者へのけん制球が逸れた場合の走者の進塁はフリーとしています。
・バント
原則としては認めていません。ただし、障害によりバントのような動作しかできない選手に限り、その打球を有効としています。
・振り逃げ
打者の振り逃げ規定は適用していません。
いろいろな障害の方も野球を楽しめるように、工夫されていますね。
『第24回全日本身体障害者野球選手権大会に行ってきました!』
澄み渡った秋晴れの空のもと、第24回全日本身体障害者野球選手権大会が、2022年11月5日(土)・6日(日)に兵庫県神戸市の「G7スタジアム神戸」で開催されました。
今回、私は11月5日に会場を訪れ、開会式や地元愛知県のチームである名古屋ビクトリーの試合などを観戦しました。
開会式では、連盟の名誉理事長で、パ・リーグの元阪急ブレーブスで活躍された福本豊さん(写真左)からも激励の挨拶がありました。
試合では、
・片手でプレーする野手が、捕球後に素早くクラブを外してボールを持ち換え、送球
・下肢に障害のある捕手が、補助イスを使用してプレー
・片手に障害のある打者が、片手でバットを持ってバッティング
・下肢に障害のある打者の打順では、打者代走が準備してヒッティング直後に走塁
など、障害をユニークポイントといえるような魅力的なプレーを、たくさん見ることができました。
また、高校時代に甲子園に出場経験のある方が、不慮の事故等により中途障害者となり、落ち込んでいた時に障害者野球に出会い、努力を重ねてこの大会にも参加していると伺いました。
名古屋ビクトリー(中部・東海代表)は、1回戦で阪和ファイターズ(東近畿代表)と対戦。2回に9点を奪う猛攻を見せ、10対0の3回コールドゲームで快勝しました。
名古屋ビクトリーは、翌日の準決勝で神戸コスモスを4対1で破り、決勝戦ではライバルチームの岡山桃太郎(中・四国代表)と対戦。激戦を制したのは、岡山桃太郎。名古屋ビクトリーに7対1で勝利し、コロナで中止になった第22回を除き、第21回から3連覇を成し遂げました。
春の全国大会覇者の名古屋ビクトリーは、惜しくも準優勝となりました。
『大会観戦を終えて』
さすが各地区の予選を勝ち抜いた代表チームの選手だけあり、レベルの高いプレーが随所に見られました。また、障害の程度に応じて全力でプレーして野球を楽しむ選手の姿に、改めてスポーツの素晴らしさを感じることができました。今回は、秋の選手権大会でしたが、各地区から2チームが参加する春の全国大会も観戦してみたいと思いました。
『ルールに障害が合わないのであれば、障害にルールを合わせよう。』という身体障害者野球で行われている工夫が、他の競技にも波及していくと、障害者スポーツの普及に一層つながるのではないかと思いました。
今回の大会は、連盟関係者をはじめ、兵庫県軟式野球連盟の審判員や関西学院大学と関西国際大学の硬式野球部員、神戸学院大学の学生放送局員が参加するなど、多くの地元関係者の方々の協力により円滑に運営されていました。
連盟の田中事務局長さんからは、来年度、第5回世界身体障害者野球大会を日本で開催する予定であることも教えていただきました。世界大会には、今大会で活躍した選手等から日本代表選手を選考し、大会に臨むそうです。世界5か国から集まる障害者野球の選手たちとの熱戦が繰り広げられるとともに、日本代表チームの優勝を期待したいですね。
資料提供:NPO法人日本身体障害者野球連盟